無敗の皐月賞馬の明暗

日本ダービー出走の各馬がゴール番を通過した直後、目の前で起きた悲劇に人々は呆然とし、本来は衝撃的であったはずのレース結果に驚く余裕を失っていた。

単勝1倍台の大本命であった無敗馬ソールオリエンスが、皐月賞とは打って変わった平凡な末脚で前を行く勝馬タスティエーラを交わせず2着に敗れた。

2年前に起きたエフフォーリアの敗戦と状況が重なり、騎手の横山武史にとっては悪夢の再来であった。無敗の皐月賞馬として日本ダービーに出走した馬は、今世紀になってからはディープインパクト、コントレイル、サートゥルナーリア、エフフォーリアとソールオリエンスの5頭のみで、前の2頭は無敗のまま3冠を達成している。

したがって馬の力という点では、前の2頭と横山武史騎乗の2頭では差がある、と言えなくもないがそれも結果論で、前評判では2頭とも3冠を狙えるレベルと判断する予想家も多かった。

さらに過去を振り返ってみると、無敗の皐月賞馬はミホノブルボントウカイテイオーシンボリルドルフなどいずれも歴史的名馬で日本ダービーを勝っている。しかし、日本ダ-ビーで初の敗戦を喫した馬たちもいる。古くからの競馬ファンにとっては忘れられない2頭が、ハイセイコーとトウショウボ-イだろう。

ハイセイコーが、当時はダービートライアルだった東京2000mのNHK杯に出走し、逃げるカネイコマとの直線坂上での絶望的な差を奇跡的な末脚で逆転し、中央転厩後無傷の4連勝を飾ったときは、「この馬は負けないんじゃないだろうか?」と多くのファンに夢を与えたものだった。

youtube.com/watch?v=fr9hxU7XANw


www.youtube.com

日本ダービーの同じ坂上タケホープイチフジイサミに交わされて力尽きたときに日本中に湧き上がった悲鳴にも似た嘆きを未だに記憶しているオールドファンも多いのではないだろうか?

 

その年は東京競馬場で行われた皐月賞で、トウショウボーイテンポイントを相手に5馬身差で圧勝した。


www.youtube.com

その雄大な馬体と抜群のスピードは多くのファンを魅了し、日本ダービーでは単枠指定されて単勝1倍台の大本命となった。しかし、結果はクライムカイザーの奇襲の前に敗れ、またしても無敗のダービー馬の誕生はならなかった。

ハイセイコートウショウボーイ日本ダービーでの敗因については様々に語られているが、共通しているのは「前走で衝撃的な勝ち方をしている」という点だろう。

皐月賞でエフフォーリアは2着のタイトルホルダーを3馬身ちぎり、ソールオリエンスは大外最後方から抜け出したタスティエーラを差し切るという圧倒的なパフォーマンスを演じた。いずれも日本ダービー単勝1倍台の支持を集めるに足る衝撃だったといえる。

2001年以降、日本ダービー単勝1倍台の人気を集めた馬は前述の無敗の皐月賞馬5頭とフサイチホウオードゥラメンテの計7頭存在する。このうち勝ったのは3冠馬2頭とドゥラメンテの計3頭で勝率は42.9%となる。

2001年以降、JRAの芝2400mにおける単勝1倍台の馬の成績は315戦138勝で勝率43.8%なので、日本ダービーでの結果とほぼ一致する。したがって、このデータからは日本ダービーでの結果に統計学的に意外な要素はどこにも無く、敗因の追求は無意味に思えるかもしれない。

しかし、さらにオープン競走に絞れば47戦26勝で勝率55.3%となり、日本ダービーの過酷さが現れてくる、といえなくも無い。

いずれの立場でも、わずか7回の事象を統計処理してもあまり意味がなく、はっきりしているのは「競馬の結果は事前の予想の斜め上を行く」という理の重さだけではないだろうか?